イラストレーターの腱鞘炎対策 肘の痛み編

 

イラストレーターの腱鞘炎対策

3回に渡ってお届けしてきた【イラストレーターの腱鞘炎対策】。今回は肘の痛み編です。

ペンタブレットの使用による腱鞘炎というと、まず親指の付け根が痛くなり、しびれが手首まで広がり、最後は肘のあたりまで痛くなるというのが一般的な症例ですが、

最近はいきなり肘から痛くなる人が増えてきたのではないでしょうか?

これはタブレットの主流が、板タブから液タブに移行してきたことに起因します。

液晶タブレットへ移行することの弊害


従来のペンタブレットというのは、机の上に平置きしていたため、タブレット面がだいたい0度から15度くらいの【寝かせた角度】で使用することが多かったのですが、

液晶タブレットになると、通常のモニターと併用する人も多いため、40度〜60度という【起きた角度】で使用することが多くなりました。


パソコンの操作というのは、いままでは手のひらが肘よりも低い状態で行うものでしたが、液タブでは胸の前まで手を持ち上げなくてはなりません。

人間の肘の構造というのは、ダランと下にさげたときにラクができるようにできています。

長時間、手を持ちあげつづける動作がどれだけつらいかは、本を顔の前まで上げて読んで見ればわかります。おそらく10分ももたないでしょう。

液タブではその状態が5〜6時間、場合によってはもっと長く続くのです

肘にまで痛みがでたら【テニス肘】に注意


その結果、手首の負担に加えて、前腕の重みが肘にかかってしまい、手首を曲げたり、ひねったりすると激しい痛みが走る【テニス肘】のような症状が生じます。

テニス肘は手術をしなくても、十分に安静状態を保つことで9割がた回復する病気ですが、そのままにしておくと慢性化し、だんだんと再発しやすくなるのも特徴です。

テニス肘という名前から、肘の使いすぎによって発症すると思われがちですが、その原因は手と手首の過負荷にあります。指の神経がこすれることによる痛みが肘まで届くのです。

ですから、肘の腱鞘炎の予防法としては、前章までに説明した親指の付け根の腱鞘炎と、手首の腱鞘炎を防ぐ方法を徹底して行うことになります。

液晶タブレットを使うことによって腱鞘炎が悪化してしまった人は、対処療法として一時的に板タブに戻すか、液タブの角度を0〜15度くらいに寝かせた状態で使用することで、症状が和らぐ可能性があります。

PC操作時の肘への負担を減らすためには

肘の負担を減らすために私自身が行っている工夫としては、キーボードを遠くに置くようにしています。

肘の腱鞘炎を和らげるためには、上腕と手首のストレッチが効果的だとされていますが、作業に没頭しているとどうしてもストレッチをすることを忘れがちです。

しかしキーボードが遠くにあれば、キーボードを叩くたびに手を伸ばすことになり、定期的にストレッチを行うのと同じ効果が見込めるのです。

こういった【意識をしなくても自然とからだのケアをしている】ような状態に作業環境を作り変えることも、快適に作業を行うには大切なことです。

ワーキングチェアを見直すと、カラダ全体の負荷が下がる

また、快適な作業環境を作る上で、非常に重要な要素に【ワーキングチェア】があります。

ペンタブでの作業というのは、基本的に座りっぱなしで、それが数時間に及びます。

人は1日の約1/3をイスの上に座って過ごし、疲労のほとんどは座ることからくるのですから、仕事に使うイスにお金をかけるのには十分な投資価値があるといえます。

私がつかっているのはノルウェーの【HAG社】が生産している【Capisco】というワーキングチェアです。

 

ちょっと変わったデザインをしていますが、人間工学に基づいて設計されたオフィスチェアで、座ることによる疲労を極限まで減らすというコンセプトで作られています。

実際には座るというよりも、ほとんど立った状態で身体を保持するイスだといっても良いでしょう。

このイスの気に入っている点として、左右に肘置きが付いているので、ペンタブレットを使っていても前腕の重みを肘置きで支えることができるようになっています。

テーブルに肘をついたり、アームレストのようなもので支えてもいいのですが、肘を乗せるために身体を前傾させると猫背になってストレートネックが悪化してしまいますし、肘をつくと体重が肘にかかってしまうため、かえって逆効果になってしまいます。

その点、カピスコチェアは身体を前傾させると背もたれが体重を支えてくれて、自然と背骨が伸びる正しい姿勢になります。

まあ、お値段のほうが結構するのが難点ですが、他のエルゴノミクスチェアやバランスボールも試してみたものの、いまのところはこれに勝るイスはありません。

座りっぱなしのペンタブ作業は喫煙と同じくらい体に悪い

最近、健康的な作業環境として医師が勧めているものに、【スタンディングワーク】があります。

長時間座り続けていると、喫煙と同じくらい身体に悪影響を及ぼすことが2013年に発表されると、

グーグルやフェイスブックなどシリコンバレーのIT企業がこぞってスタンディングオフィスを導入しました。

なんでも、立っているときに椎間板にかかる負荷を100とすると、座って背筋を伸ばすのは140、猫背になると185の負荷がかかるそうです。

そんな時流にのって、Wacom社からもスタンディングワークに対応したWacom Cintiq Pro 24,32専用エルゴトロン製アーム【Wacom Flex Arm】が発売されています。

私の作業場も身長や手の長さに合わせて計算を行い、スタンディングワーク仕様にしてあります。

通常のワークデスクでは173cmの身長に最適な天板の高さは68cmなのに対し、スタンディングデスクではペンタブまでの高さが78cm、キーボードの高さが85cmでした。

一般的な事務机は高さが70cmになっていますが、これは1970年代にきめられた基準で、現代では机の上にキーボードを乗せたり、タブレットを乗せたりしていますから、座って操作すると高すぎるということになります。

もし机の上にペンタブを置いて使うのならば、机の高さを5センチほど下げるか、もしくは10センチほどあげてスタンディングデスクにすると良いかもしれません。

さて、3回に渡ってお届けした【イラストレーターのための腱鞘炎対策】。
悩みのタネの腱鞘炎を解消し、快適に作業を行うヒントはあったでしょうか?

クリエイターは才能ではなくカラダが資本です。
いざというときに本当に頼りになるのは、体力と気力です。
さあ、今日も頑張りましょう。

           前のページへ   

葉車堂細工所 オンラインストア