イラストレーターの腱鞘炎対策 親指の痛み編

イラストレーターの腱鞘炎対策

 

クリエイター最大の敵 腱鞘炎をどう防ぐか?

ペンタブレットを酷使するイラストレーター、漫画家の大部分が、慢性的な腱鞘炎に悩まされています。

もし腱鞘炎にかかってしまったら、症状が悪化する前に作業を中断して、なるべく動かさないように静養することが一番の治療法。

その間は製作が行えなくなってしまいますが、その後も長く製作活動を続けたいのであれば、まず手指を大切にしなければなりません。

しかし、せっかく気持ちが乗って勢いが出始めたときに痛みによって描けないのでは、今度は精神的なストレスが溜まってしまいますよね

ここではクリエイターが腱鞘炎を持病にしないために、日々の作業で蓄積する疲労を軽減する方法をご紹介いたします。

私自身は医師ではありませんし、専門的に作業療法を学んだわけではありませんが、

バイクでの交通事故で左手親指を粉砕骨折、機械整備中の不注意から右手小指の先端を欠損し、その2回のリハビリを通じて学んだことや、その後遺症に苦しんだ経験から得たことをまとめました。

そのため内容には医学的な根拠がないことが書かれているかもしれません。間違いに気づかれたかたはご指摘いただけましたら幸いです。

<目次>
  クリエイター最大の敵 腱鞘炎をどう防ぐか?
  ひとそれぞれに症状が症状が違う腱鞘炎
  親指の付け根が痛くなる腱鞘炎
   ・親指を握り込むタイプの人
   ・親指を伸ばしたり、反らしたりするタイプの人
   ・筆圧が高く、指先に力が入りすぎているタイプの人
  手首が痛くなる腱鞘炎
  肘が痛くなる腱鞘炎

 

ひとそれぞれに症状が違う腱鞘炎

腱鞘炎と一言でいっても、人それぞれに痛くなってくる部分が違います。

イラストレーターに負担がかかりやすい部位としては、親指の付け根、手首、肘など。

それだけでなく手首の腱鞘炎をかばうために無理な姿勢をとってしまい、結果として肩や背中が痛くなったり、頭痛を併発したりと他の部位にまで影響を及ぼす場合もあります。

人によって症状が違うのは、同じ線を描く動作でも手首のスナップを使ったり、肘を支点に前腕を振ったり、手首と腕を固定して体軸を傾けたりと、それぞれやりかたが違うからです。

たいていは筋肉が一番疲れづらい方法を自然と選んでいるのですが、その疲れづらい方法が腱や関節に負担をかけていることもあります。

また、交通事故などにより骨や関節を痛めた経験がある人などは、リハビリ後もその部位が極端に疲労に弱くなってしまうこともあり、私自身もその一人です。

姿勢や道具を見直すことで負担を軽減することができますが、作業の仕方には癖や好みがあり、

日々の習慣はなかなか直しづらいだけでなく、姿勢を少し変えただけでも作画のタッチが変わってしまうことがありますので、色々と試していって、自分にあった方法を見つけるしかないのが現状です。

ここではイラストレーターがかかりやすい腱鞘炎のタイプを、痛みのでている部位によって3つに分類します。

  • 親指の付け根
  • 手首

同じ部位の腱鞘炎でも、痛みの特徴によって原因がさらに細分化できますので、ご自身の症状を照らし合わせてみてください。

親指の付け根が痛くなる腱鞘炎

このタイプの腱鞘炎になる人は、筆圧が高い、もしくはペンの握り方に癖があるかたが多いようです。

標準的なペンの持ち方だと負荷があちこちに分散するのですが、癖のある持ち方を続けていると、1箇所だけに疲労が蓄積してしまうことがあります。

親指の腱鞘炎を、ペンの握り方によって3タイプに細分化してみましょう。
親指を握り込む、親指を反らす、指先に力が入っている、の3タイプです。

親指をにぎりこむタイプの

親指を握り込むタイプの人は、指が常に曲がった状態で力が入り続けています。
そのため、親指の腱が縮みきり、腱が腱鞘に圧迫されるかたちで痛くなってきます。

同時に拇指球の外側の筋肉がこわばったまま硬直しているので、だるく重い感じが続き、それが時間とともに痛くなってきます。人差し指の痛みが激しい場合もあります。

こういうタイプの人は手のひらを握り込む力でペンを操作しているので、作画中に腕をほとんど動かさず、手首を巻き込むようにしてグリグリと描くことが多いのではないでしょうか?

このタイプの人はペン軸の角度がタブレットに対して垂直、またはペン尻が奥側に傾く傾向にあります。
確かにこうするとペン先が手前にくるので、作画している線が見えやすいんですよね。

 

それでは改善例です。

指を軽く伸ばし、ペン軸を3本の指でフワッと握るようにします。
親指は曲げず伸ばさず、他の指はグリップに添えるだけ。

ペンの重みは中指の指先と人差し指の付け根にかかっています。
この持ち方だとペン軸はタブレットに対して横に傾く感じになります。

手のひらに握り込んでいた中指と小指と薬指も、軽く握るだけにします。

握り込むタイプの人は腕をあまり動かさずに細かく描くことが多いので、タブレットの作画範囲を広げたり、少し大きめのタブレットにかえることで、指先に集中してしまっている負担を腕や肘に分散するのも良いでしょう。

タブレットペンのグリップを太径に交換して、物理的に握り込めないようにしてしまうのも一つの手です。



親指を伸ばしたり、反らしたりするタイプの人

親指を反らすタイプの人は、肘支点で描くひとが多いです。
ペンを人差し指で拇指球に押し付けるようにして固定しています。

親指を反らすと腱がマックスの状態まで伸びきるので、腱鞘に当たって痛くなると同時に、拇指球をグッと押し付けるようにするので、付け根の関節が痛くなります。

このとき人差し指の第一関節も伸ばしていることが多いので、こっちも痛くなります。

この握り方の場合も、ペン尻が奥に向いている場合が多いです。

親指の根本や腹でペンを支えているので、親指の指先には一切、力が入っていませんが、そのぶん人差し指の負担が大きくなっています。

改善後です。

3本の指の指先でホールドすることに集中すれば、自然と指が曲がります。

普通の持ち方で手が痛くなった結果、親指を伸ばすように変わっていった、という方もいると思いますが、

親指の腱鞘炎で最も激しい痛みがでやすいのが、この指を反らせたままにするタイプとのことなので、なんとしてでも疲れづらいペンの持ち方に改善したいものです。

持ち方を変えてペンが安定しないようであれば、指先に力をいれるよりも、手首の角度をかえてみたほうが安定するがあります。



■筆圧が高く、指先に力が入りすぎているタイプの人

指先に力が入りすぎていると、親指に限らず手全体が疲れやすく、色々な種類の痛みが複合してでてきます。

筆圧が高くてタブレットペンの芯があっという間に減ってしまい、オーバーレイシートがツルツルに削れてしまうような人は要注意です。

このタイプの人は他の2タイプと違い、細部を描く時に積極的に指先を動かしてペンを操作するのが特徴で、細かい線を引くたびにすべての指にグッと力が入るので、痛みと疲れが手全体に広がりやすいのです。

ならば筆圧を下げればよい、って分かっているんですが、そうすると線が安定しないんですよね。線に力が無くなるというか、、、。

ホールド感を保ったまま筆圧を下げるには、指先にだけ集中していた力を指全体に分散するのが効果的です。

といっても、手全体に力を入れるのではなく、逆に脱力して、筋力を使わずに骨格と皮膚の摩擦抵抗でペンを支えるようにします。

指先だけでペン軸を押しつぶすようにつまんでいたのを、指全体をグリップに沿わせるようにすることで接触面積を増やし、指で挟むようにしてホールドするのです。

このとき、人差し指が指先から根本まで接触しているのが理想なので、そのために指は若干、伸ばし気味にします。

ペンを指全体で支えるようにするには、Wacom社から発売されている太径のグリップ【ラバーグリップ ACKー30002】に交換するのも効果的なのですが、

これは標準ペン用しか発売されていないのと、重心が下がり、体感重量がかなり重くなってしまうという難点はあります。

試しにプロペン、プロペン2に装着してみたところ問題なく使うことができましたが、残念ながらサイドスイッチが使えなくなります。

標準品より40%も軽いグリップや、太径でもサイドスイッチが使えるグリップをお探しなら、
葉車堂細工所製 木製グリップをお試しください。
ペンタブレットを使い込んでいる方ほど、軽さを実感していただけます。


私の場合、怪我によって親指が疲れやすく、握力がない状態になってしまったため、結果として力を入れないペンの持ち方に変わっていったということもありますが、

職業的にイラストレーターやアニメーターの道を選ぶ人は、制作会社に入るとまず最初に、長時間の作業に耐えられるように、先輩から【ペンを長く、軽くもつ】ように指導されるようです


次の章では、手首の腱鞘炎について考えてみます。

 

 次のページへ  1   

葉車堂細工所 オンラインストア