クリエイターの腱鞘炎対策 手首の痛み編

イラストレーターの腱鞘炎対策

クリエイターの職業病ともいえる腱鞘炎について考える連載の2回目は手首の痛みについてです。
2度の事故によって手指が疲れやすくなってしまい、20年に渡って苦労してきた経験をまとめています。


ペンタブレットを使っていて発症する手首の腱鞘炎の原因要素は、主に2つです。

【手首の腱鞘炎の原因要素】
 手首のスナップを使いすぎることによる疲労の蓄積
 キーボードやマウスがもたらす疲労蓄積

ペンタブレットなどのデジタルデバイスを使うにしても、紙とペンを使ってイラストを描くにしても、ひたすら右へ左へとペンを動かす動作の繰り返しで、1つの作品にかかるペン先の移動距離の総延長は、膨大なものになります。

ですので、1つの動作に対してほんのちょっと負担を軽減するだけでも、数時間、数日の作業となれば大きな差異が生まれてきます。

あなたの腱鞘炎がまだそれほど酷くないのであれば、今のうちから是非とも疲れづらい作業の仕方を覚えて、長く快適に作業が続けられるように習慣化してみてください。

 

手首のスナップを使いすぎることによる疲労の蓄積

当たり前のことですが、手首の腱鞘炎を予防する方法としての最善策は、手首をできるだけ使わないことです。

痛みがでたら絶対安静、しばらくは一切動かさない、というのが腱鞘炎治療の基本中の基本だからです。

とはいうものの、すでに痛みがあり、それでも作業を続けなければならない状況にあなたが追い込まれているのであれば、手首を温存する方法を覚えなければなりません。

ペンタブ使用者は経験とともにだんだんと自分なりの疲れづらい描き方を見つけていくのだと思いますが、

一般的に疲れにくいと言われているペンの持ち方があります。

できるだけ少ない動作で、長い線をかけるようにするには、ペンを長く持つ。

ペン先付近ではなく、ペンの上の方を持つようにする、ということです。
こうすることによって、少ない動きでペン先を大きく動かすことができます。

細かい効果線を引くような動作にしても、手首のスナップを使うのではなく、ペン尻を持って中指と人差し指を振るようにすると、親指や手首を温存することができます。

しかしながら、こういう持ち方をすると筆圧が下がりますので、タブレット側でペンの硬さ調整をする必要があります。

Wacomのタブレットの場合、同じ種類のペンには1つのプロファイルしか持てないので、グリップペン、プロペン、アートペン、クラシックペンなど複数のペンを使い分け、それぞれに違ったペン調整をしておくと便利です。

ちなみにワコムのペンの重量を比較すると、

 アートペン   19g
 プロペン   18g
 3Dペン    16g
 プロペン2   15g
 プロペンスリム 12g
 クラシックペン 11g

クラシックペンが一番軽いようです。

手首をスナップさせるようにして描いたとき、スイングウェイトが一番軽いものが負担も一番少ないですから、下書きはクラシックペンやプロペンスリム、ペン入れはアートペンというような使い分けをすると良いかもしれません。

ペンとタブレットの摩擦抵抗による負荷も無視できない


また、長時間に渡ってタブレットを使用していると、表面の摩擦抵抗が手首にあたえる負荷も相当なものなので、私自身はドロー系のソフトの場合は、オーバーレイシートの上にツルツルした障子紙を貼り付けて使っています。

障子紙は安いですし、紙質の種類も豊富にあるので、自分の好みに合ったひっかかり具合のものが見つかるまで色々と試してみるのも楽しいです。

CADに使う時はそれだと滑りすぎて座標をとりにくいので、上にA3サイズのカッターマットを敷いて、抵抗を増やして使っています。

マットは1ミリくらいの厚さがありますが、タブレットの検出感度にはまったく影響ありません。

この上で電子部品をハンダ付けしたり、写真撮影をしたりしてますが、タブレットが傷つくこともなく、貴重な作業スペースが確保できるので非常に便利です。

他にもビニールシートやプラバンを敷いたりして、好みの材質を探してみるといいでしょう。



キーボードやマウスがもたらす手首への疲労蓄積

タブレット使用者の腱鞘炎の原因がタブレットであるとは限りません。

キーボード、マウスなどもまた手首に大きな負担をかけるデバイスだからです。

たいていのイラストレーターは、作画の拡大画面と全体像、さらに映像資料とブラウザを同時に参照するなど、マルチモニターでの作業が標準なので、カーソルの移動距離も尋常ではありません。

人間の手首の関節は、小指側にひねったり、手の甲の方へ曲げるのには不得手な構造をしているので、マウスを繰り返しガチャガチャやっていると、手首を無理な角度で曲げることになり、腱鞘炎を引き起こすようになります。

マウスの使用時に痛みがさらに悪化するようであれば、まずはマウスをトラックボールに変えるべきです。

トラックボールには親指でボールを操作するものと、人差し指で操作するものがありますが、

人間の指は人差し指のほうが前後左右の動きに対して疲れづらくできており、腱鞘炎になりやすい親指を温存するためにも、人差し指タイプを選ぶと良いでしょう。

現在入手可能なもので、オススメなのは、ELECOMのHUGEです。

今までいくつものトラックボールを試してきましたが、廃盤となってしまった Micorosoft Trackball Explorer 以降では、最も使いやすいトラックボールではないかと思います。

通称【大玉】と呼ばれているタイプで、ボールが大きいほど軽い力で、精度良くカーソルを操作することができます。

ひとつ難点があるとすれば、このトラックボールは親指にスクロールホイールが割り振られているのですが、

腱鞘炎になりやすい親指の負担を軽減するためには、フリーソフトを使ってスクロール操作をボールの回転に割り振ってしまうと良いです。

マウスの位置にも気を使おう

マウスやトラックボールなどのデバイスを使う上で重要なのが、手首や肘との位置関係や角度です。

一般的に【エルゴノミクスデザイン】と呼ばれる製品は、人間工学に基づいて、身体に負担がかかりづらいような設計がなされているのですが、身体との位置関係が不適切だと、本来の効果を発揮できません。

またこのような製品は、欧米人の体格をもとに作られていることが多いので、小柄な日本人が使うと無理に指を伸ばさないとボタンまで届かなかったりして、かえって疲れてしまうこともあります。

通常、マウスやトラックボールなどのデバイスは、机の上にそのまま置いて使うものですが、そのままだと大抵の場合、マウスの位置が低すぎます。

マウスの位置が低いと、手首が甲側に深く曲がることになり、関節に過度の負担がかかるようになります。
また、マウスの位置が高いと、今度は前腕の重みが肘にかかることになり痛みを感じるようになります。

最も負荷がかかりづらいのは、手首より肘の位置が2〜3センチほど高い状態で、手首がまっすぐ〜やや甲側に上っている程度の角度になります。

マウスを置く場所が身体に近いと、肘や手首が曲がったままの状態になってしまうので疲れやすくなってしまうのですが、

そこはあえてマウスを遠ざけて置くことで、マウスに手を伸ばすたびに前腕と肘がストレッチできるようにすると、疲労回復に効果的です。

私の場合、タブレットペンのペン立てを、思いっきり手を伸ばさないと届かない場所に置いています。

手首の痛みを軽減するには、チルト角という手首の回転方向への傾きも重要で、こればかりはいくつかのマウスやトラックボールを試してみて、自分にあったものを探すしか無いのですが、

私の場合、トラックボールの下にスポンジを貼り付けて角度を調整するとともに、底上げしてペンタブレットと同じ高さにしています。

移動式のマウスに比べて、固定式のトラックボールが腱鞘炎の人に向くのは、いちばん痛みが少ない位置に固定してしまえば、常にその状態が保たれることにあります。

また大きなタブレットを使用していると、デスクトップのスペースがかなり狭くなりますから、その点でも省スペースのトラックボールは有利だといえます。

 

さて、次の章では、液タブ使用者は特に注意しないといけない、【肘の腱鞘炎】をとりあげます。

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